AZUMINO
Nature Mt. Ariake House
SPICE UP YOUR LIFE
温度も音も、感情も
見えない心地よさをデザインする
細部まで研ぎ澄まされた美しさ、色と質感のバランス。店舗設計で培った感性が生きたブラックペッパーの住宅は、目に見える美しさだけでなく、断熱・気密性、耐震性といった機能も高め、長く愛される住まいを目指します。「暮らす人の気持ちや安心感にまでアプローチしたい」。チーフデザイナーの竹内恵一さんに、設計で大切にするものを聞きました。

ブラックペッパーの立ち上げメンバーであり、チーフデザイナーの竹内恵一さん。中学生の時から、毎週自分の部屋を模様替えするぐらいインテリアが好きだったそう。

大阪から長野・安曇野に移住したMさんご夫妻。新居には念願の薪ストーブを導入。地元の人に教わりながら、敷地内の木を伐採して薪づくりに汗を流した。
目に見えない感覚にも
感情にもアプローチしたい
みずみずしい安曇野の森とコントラストを描くモノトーンの切り妻屋根。扉を開けると、木の色とブラックが織りなすミッドセンチュリーを思わせるモダンな空間と、大きな窓が切り取る森の景色に迎えられます。
ここに暮らすのは、大阪から移住したMさんご夫妻と6歳の長男。スキーや釣り、キャンプを愛するご夫妻は山の近くで暮らしたいと、約2年かけてこの敷地に巡り合いました。新天地の住まいに求めたのは、長野の厳しい寒さに負けない断熱性能と、自分たちの理想を形にしてくれるデザイン力。いくつもの住宅会社を回った結果、信頼を寄せたのがブラックペッパーのデザイナー、竹内恵一さんでした。
「デザインにも惹かれましたが、ブログを読むと断熱についての深い知識が伝わり、話を聞きたくなりました。打ち合わせを経て提案されたデザインには、私たちの希望がしっかり汲み取られていて。私たちが空間の何に魅力を感じるのか、自分たち以上に分かってくれました」
施主との対話で、住まいの要望だけでなく趣味や好きなもの、理想のライフスタイルなど、じっくり耳を傾けることを大切にしている竹内さん。「住まいとは目に見える部分だけでなく、温度や音、香り、そこで過ごして抱く感情、未来への安心感まで含めてデザインするもの。私が設計士でなくデザイナーと名乗るのも、目に見えない感覚や感情も全部含めて、空間をつくりたいという思いからです」

デッキテラスでは家族でコーヒーを飲んだりBBQをしたり、夜は寝転んで星を眺めたり。

M家のLDK。切り取られた緑と合板でプレーンに仕上げた室内の対比が印象的。
素材使いとディテールに
美しさが宿る空間設計
竹内さんは長野市出身。東京で空間デザインを学んだ後に帰郷し、会社員を経て、高校時代からの友人である鍋内志一さんとブラックペッパーを立ち上げました。
「最初は店舗設計で起業しましたが地方ゆえにニーズが少なく、まして実績のない自分たちが仕事をもらうことは難しくて。ならばデザインも施工もできる会社になろうと、鍋内と二人、別荘建築を手がける大工さんのもとで3年間修業を積みました」
デザインから施工まで一貫して手がける現体制の原型を築き、友人の住まいの設計をきっかけに口コミで少しずつ依頼が増加。設立から10年が過ぎた現在はスタッフ14人の会社に成長し、2023年秋には、長野市内のビル一棟をリノベーションしたオフィスに移転を果たしました。

木造だが中央の柱はメタルで覆って倉庫のような雰囲気に。浮遊感のある階段の手すりは自社オリジナル。家具は大阪の家で愛用していたもので、サイズを伝えて設計に組み込んだ。
手がける仕事はヘアサロンやカフェ、オフィスなどの店舗と住宅がほぼ半々。「店舗と住宅ではデザインに求められるものがまったく違いますが、互いに良い影響を与えてくれます」。店舗で大切なのは店が表現したいこと、伝えたいことをいかにメッセージ性のある空間にするか。当然トレンドのデザインや新しい素材を取り入れる機会も多く、その経験が住宅にも生きています。
空間で印象的なのが素材の使い方。奇をてらわず、けれど少しスパイスを効かせた素材が表情をつくります。M邸も色を抑えたプレーンな空間ながら、木、メタル、レザー、ガラスと質感豊かに織り交ぜることで洗練された雰囲気に。壁と天井には、 「倉庫の雰囲気が好き」というご夫妻の言葉に着想を得て合板を使用。木目が美しいシナ合板を選ぶことで、ラフな中に端正な表情が宿っています。木の面積が広い空間は素朴な印象に寄りがちですが、階段の手すりのスチールや柱に巻いたメタル、ソファのレザーやキッチンのステンレスといった硬質な素材をバランスよくミックスし、モダンな雰囲気に仕上げました。

階段下はワークスペースに。壁のシナ合板は竹内さんが現場で木目を見て自然な並び順を検討した。

造作キッチンも壁や天井と色調を合わせ、天板やレンジフードはシルバーで統一。奥はパントリー。
「LDKに選んだドイツ製ラミネートフロアは、店舗設計でもよく使うものです。無垢材に近い質感と土足にも耐える強度があって、住宅にも合うと感じました。階段と2階の床は外壁と同じ無垢セメント材ですが、住宅では少し珍しい使い方ですね。お客様に納得いただくことが前提ですが、新しい素材で表現の幅を広げるマインドは、住宅設計でも常にあります」
造形で追求しているのは、生かしたいラインとなくしたいラインにメリハリをつけること。窓や扉の枠を設けず壁や床とフラットに納める、巾木(床と壁の境目に付ける部材)を使わずエッジを見せる。引き算のデザインはごまかしが効かないためディテールまで精度が問われますが、確かな技術をもつ職人との連携により、美しさを形にしています。M邸では、合板の間の2㎜幅の目地を壁から天井まで一直線につなぐ細やかな仕事により、おおらかな空間に均整が生まれています。「物と余白の関係も大切です。以前は住まい=箱と捉え、家具や物が入って初めて空間が完成するように設計していましたが、最近は物をあまりもたないミニマルな生活を実践する方も増え、その場合は、物がなくてもシーンが成り立つよう意識して設計します」
一方で、「デザインにおける“ブラックペッパーらしさ”は少しずつ崩していきたい」とも話します。住宅はアートではなく、住み手の思いを具現化するもの。施主の希望を表現する手段であるデザインには、選択肢が多いことが大切だと考えています。これまでは竹内さんがデザインの中枢を担ってきましたが、社内の若手デザイナーのデビューも予定しているそう。「目に見えない部分までデザインする」という信念を共有しつつ、個性豊かなデザインを目指します。

玄関からLDKを見る。通路を抜けると一気に視界が開けるプラン。スイッチやコンセントは黒で統一。

2階の寝室はスリット窓で光を絞り、こもるような空間に。手前にウォークイン・クローゼットがある。

施主とのリラックスした対話を大切にする竹内さん。自社ビル1階に、ゆっくり打ち合わせができるカフェをオープン予定だ。
心豊かに住まうために
暑さや寒さを「意識しない」家を
「竹内さんにお会いした時、デザインより断熱の話をしっかりしてくれたことが頼もしくて、依頼の決め手になりました」とMさんご夫妻。空間の美しさのみならず、機能性も高い水準でデザインすることがブラックペッパーの信条です。北海道仕様の断熱性能を標準とし、外壁は一般的な木造住宅の2倍に当たる210㎜厚のダブル断熱、窓はトリプルガラスのサッシを使い、季節を通してエアコン1、2台で快適に過ごせる環境をつくっています。「大阪で住んでいたマンションより快適なんです。家の中に気温差がなく、湿度もちょうどいい。普段は2階のエアコンを24時間弱めに運転させれば快適で、1階のエアコンは時々つけるぐらいですね」とご夫妻。

庭の菜園で野菜を育てているMさんご夫妻。

安曇野で過ごす初めての冬に向けて、薪ストーブへの火入れを楽しみにしている。
ブラックペッパーが掲げる設計方針は「30年後も快適に暮らせる住まいをつくる」。断熱・気密性能と耐震性能に優れた長く愛される建物をつくることが、建築の担い手としての責任と考えているからです。現在も勉強会に通って断熱施工の知識をアップデートし続ける竹内さん。以前は断熱の重要性を時間をかけて施主に説明していたと言いますが、「この頃は、誰彼構わずうるさいことを言わないようになりました。もちろん、断熱・気密に手を抜いているわけではないんですけれど」。その理由とは?
「家づくりのプロとして、私たち専門家が快適な住宅を提案することはもはや当たり前のことだと思えて。好きな空間で不自由なく暮らせること。快適な温熱環境はあくまでも前提にすぎず、暑さ寒さを“感じさせない”住まいでなくてはならない。どんなにかっこいい家でも、寒いと感じたら“寒い家”というイメージがついて、デザインは二の次になってしまうでしょう。断熱・気密性は住まいのベースであり、私 たちが考える標準として、現在の仕様を提供しています。快適な環境だからこそ好きなデザインや豊かな日常を楽しめるし、そんな設計をスタンダードにしたい」
断熱・気密性、耐震性といった未来に欠かせないスペックも一体にデザインすること。永く大切に住まう器を叶えるためのブラックペッパーの指針です。

今後、DIYで外構も整えていく予定だ。

静かな森に立つ住まい。毎日、季節の移り変わりを五感で感じられる。
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このページに記載されている記事本文、写真等は「moves.」VOL.2より転載しています。