Nagano
Garage Villa
Small Space, Big Design.
小さな平屋の豊かな暮らし
愛犬と過ごすための、森の中の小さな住まい。コストを抑えたミニマムな週末住宅に選んだのは、ガレージを住まいにコンバージョンする方法でした。空間は小さくても、ここには必要なものがすべてある。素材とディテールにこだわるデザイン事務所、ブラックペッパーが手がけた空間は、小さな住まいの可能性を示しています。

ブラックペッパーのチーフデザイナー、竹内恵一さんとスタッフのASUKAさん。

Sさんの愛犬、ポインターのぽてちゃん。ぽてちゃんのために山の家づくりが始まったという。
森に囲まれた庭と平屋で愛犬と過ごす、
穏やかな週末
背の高い木立に守られるような芝生の庭に、切妻屋根の美しい平屋。庭に面した扉を開け放てば室内外がおおらかにつながり、愛犬が元気に走り出していく。普段は神奈川に暮らしているSさんご家族は、2週間に一度のペースで山梨・北杜市に立つこの週末住宅を訪れ、愛犬と楽しい時を過ごしています。
「犬がリードなしで思う存分走り回れる場所を求めて、森の中の住まいを計画しました。ドッグランとなる広い芝生の
庭が最優先で、建物は最小限でいい。犬が外からそのまま入っても気にならないオール土間の住まいをイメージして、ガレージを住宅にコンバージョンする方法に興味をもちました。一方で、デザインにもこだわりたいと考えてリサーチする中で出会ったのが、ブラックペッパーのMaster’s Garageでした」
Master’s Garageは、長野市を拠点に住宅と店舗のデザインを手掛けるブラックペッパーが展開するガレージ専門ブラ
ンド。一般的な在来工法より建築コストを抑えられるツーバイフォー工法で耐震性・耐風性を高め、トラス構造の屋根によって柱や壁のない大空間を実現します。アメリカ西海岸をイメージしたラフなデザインが魅力で、デザインやプランのアレンジも可能。あくまで車のための空間ですが、住宅建築を主軸とするブラックペッパーだからこそ、住宅用途として設計してほしいというSさんの希望に応えることができました。

山梨県北杜市に立つ、Sさんご家族の週末住宅。背の高い木々に囲まれ、視線を気にせず広い庭で愛犬と遊べる。

ブラックペッパーが手掛けるガレージブランド「Master’s Garage」の規格で住宅を設計。庭に面した大開口の折れ戸を開け放つと室内外が一体に。


住まいのメインは、大開口で庭とつながる明るいLDK。ご夫妻所有のモダンな家具の背景となるよう、壁と天井は主張の少ない端正なシナ合板で統一した。愛犬が外からそのまま入れるよう床はコンクリートの土間に。
開放感とこもる感覚、
両方を感じられる小さな家
Sさんの希望は、室内外を一体に感じられる大開口と土足のまま生活できる土間空間。設計を手掛けたチーフデザイナーの竹内恵一さんは、床面積を約55㎡とミニマムにおさめたうえで水周りやベッドスペースをコンパクトに設計し、広いLDKを住まいの中心とするプランを提案しました。
庭に面した大開口の扉を開け放てば、室内外が一体に。スクリーンのように広がる景色が室内外の境界を曖昧にし、面積以上の開放感を感じます。ソファに座り、愛犬が遊ぶ姿や森を眺める時間は至福のひととき。「何も考えず緑を眺める時間は最高に癒されます」と奥様。
対照的に、家の奥に造作したベッドスペースはこもるような感覚。LDKの一角にはPCを置いたカウンターデスクや一人でくつろげるヌックなど、小さな空間に心地よい居場所を点在させました。
「Master’s Garageの特徴は、柱のない大空間。その特性を生かし、扉や間仕切
りを最小限にして広がりを生んでいます。ベッドスペースも扉を設けず、LDKとL字形にレイアウトすることで空間を分けました。上下足の概念がないため玄関スペースを省いたことも、空間を広く活用するアイデア。コンパクトで間仕切りのない空間は暖房効率も良く、冬は薪ストーブが住まい全体を温めます。

壁の一面はアートとディスプレイで楽しむスペースに。植物のモチーフのアートが周囲の自然とリンクする。

リビングの一角には小さなベンチをしつらえてくつろげるヌックに。

コンパクトながら二人並んで座れるカウンターデスク。上部の棚は扉をつけず、見せる収納スペースに。


正面左手がキッチン、右手がシャワールームへの扉。左奥に進むとベッドスペース。ご夫妻の希望で入れた薪ストーブが住まい全体を温める。土間には蓄熱効果も。
インテリアの背景となる素材と、
美しいディテール
印象的なのが、住み手の個性が表れた、ガレージとは思えない美しいインテリアです。「森の別荘というとログハウスのような雰囲気が思い浮かびますが、この場所は周囲に背の高い木々が多くて夏はうっそうとするほど。室内は雰囲気を変え、美術館のように明るくモダンな空間にしたいと相談しました」とご夫妻。
竹内さんは置く予定の家具や好みのテイストをヒアリングしたうえで、壁と天井に木目の端正なシナ合板、床はインダストリアルな表情のコンクリートを提案。モダンな家具を引き立てる背景となると共に、木の素材感を適度に取り入れて周囲の自然に調和させました。住宅はもちろん、多種多様な店舗デザインを手掛け、素材という豊かな言語をもつブラックペッパーの哲学が表れています。
「西海岸テイストがコンセプトのMaster’s Garageをモダンなデザインと融合させるのは初の試みでした。けれど私たちは住宅でも店舗でも、あえてブラックペッパーらしさという固定概念にとらわれすぎないよう気を使います。お施主様のライフスタイルを輝かせることができるかにこだわり、それが新しいデザインとの出会いを生みます」
テイストが違えど一貫しているのはディテールへのこだわりです。個体差のある合板の木目が均一になるよう並べ方を計画し、目地を一直線に連続させたのはもちろん、庭につながる開口と床との段差を極限までフラットに近づけて室内外の一体感を高めるなど、細部へのこだわりが空間全体の完成度を高めています。
「壁の張り方までこだわって提案してくれたことが印象的でした。私たちの意図を汲み、必要十分な住まいを納得できるスタイルと価格で実現していただけて、とても満足しています」とご夫妻。


4人が眠れるベッドスペース。2段ベッドや収納と一体にして空間を有効に活用。
M_縦長の窓が海外のような雰囲気。
少ないことは豊かなこと。
小さな家に感じる可能性
ブラックペッパーとして通常提案する注文住宅とは、前提もコンセプトも異なる今回のプロジェクト。建物の形や素材の種類に制限がある中でどれだけご希望を形にできるか、熟考を重ねたと振り返る竹内さん。完成した住まい、そしてご家族のライフスタイルから、「小さな住まい」の豊かさに気づいたといいます。
「住宅の価格が高騰している今、大きな別荘ではなく、ミニマルなセカンドハウスを建てて行き来するライフスタイルに魅力を感じます。小さな家は空調効率が良くエネルギー消費を抑えられるし、掃除や修繕もしやすい。内装もシンプルにしつらえて、後から好みに合わせてDIYやリノベーションを加えても楽しいでしょう。建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉に“Less is More(レスイズモア)”というものがあります。少ないことは豊かなことであると。私はこの言葉が大好きで、デザインでも無駄なものを省いてシンプルにすることを、心に置いています。ライフスタイルや暮らしのあり方においても、この考え方が豊かさを生むのではないでしょうか。あるものを大事に、愛着をもって使う。そんな暮らしを、提案していきたいと思います」

縦長の窓が海外のような雰囲気。

耐久性の高い外壁材を下見板張りに。

ご夫妻が希望した広い下屋空間はDIY作業に便利。アウトドアリビングとしても活用予定。


豊かな自然に包まれた環境。
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このページに記載されている記事本文、写真等は「moves.」VOL.3より転載しています。